2014年12月19日金曜日

私はまだ、負けてすらいなかった。映画「立候補」の感想

ずっと気になっていた映画の一つに「立候補」があった。

群馬では だるまも装う サンタ衣装。メリー!!

群馬から上映映画館の「ポレポレ東中野」や「下北沢トリウッド」までは遠すぎて、なかなか上京の機会が合わずにボケっとしていたら、DVDがリリースされたらしい。
そのうち借りようと、またまたボケっとしていたら、今般の衆議院選挙に合わせてGyaoで期間限定無料配信されていたらしい。
しかも配信期限切れ1時間半前のギリギリにLINEで友人が配信情報を教えてくれた。

映画「立候補」Amazonインスタント・ビデオ

やっと見た。
そして「なんでもっと早く観なかったんだ!観ないなんて馬鹿。おすぎです!」と思った。


映画「立候補」予告編


観る前は「?」だった映画のキャッチコピー

「あなたはまだ、負けてすらいない。」

をさすその意味が、はっきりとわかる箇所が終盤登場する。私はそこで声が出そうなくらい泣いた。

高みの見物を気取っていたこちら側に対して「お前に言ってるんだよ!」と喉笛に短刀を突きつけるように迫ってくるセリフの数々に、完全に打ちのめされてしまった。
おかげで映画を見た一昨日の晩は放心状態からなかなか抜けられず、やっとの思いで寝付いたのが夜中4時で起床が6時半だった。
そのせいで朝の通勤時間と夕方の電車移動の2時間がほぼ睡眠時間となり、首を寝違えたほどだった。





泡沫候補と揶揄されるマック赤坂や、その他のトリッキーなおじさんたち(羽柴誠三秀吉、外山恒一など)を面白おかしく観察する映画だという当初抱いた印象は、粉々に打ち砕かれた。

マック赤坂の秘書、櫻井武氏のインタビュー(最初は時給4,000円のバイトとして雇われるが、入る前と入った後で時給をどんどんディスカウントされた。という笑い話)を見た後は、櫻井氏が画面に出てくるたびに哀愁を帯びたその姿を追いかけ、いつの間にか櫻井氏に思い切り感情移入していた。
中盤でこの映画の陰の主役は櫻井氏なのだということに気がついた。

誰かが例えていたが、マック赤坂が妄想の騎士「ドン・キホーテ」なら、櫻井武はそれに仕える従者「サンチョ・パンサ」だ。
狂人的なドン・キホーテの頭の中身を探ることは難しいが、平凡な一般人のサンチョ・パンサの身の回りのことならば映像化しやすいし面倒くさいことも少ない。
そういう配慮からなのかはわからないが、マック赤坂本人の人となりよりも櫻井氏やマック周辺の人々の方をクローズアップする方法が採られている。

マック赤坂がこの映画の主役の座を射止めたのは、経歴の華麗さやキャラクターのユニークさではなく、取り巻く人間のもつドラマの豊富さが主な要因だと思う。
この映画の影の主役は間違いなく彼の秘書櫻井氏とその家族であり、だいぶ後に出てくる彼の息子、戸並健太郎氏だろう。
序盤から櫻井氏に、終盤には息子の健太郎氏に、完全に美味しいところを全部持って行かれるところがマックらしいといえばマックらしい。

 

  ◎この映画の主役(泡沫立候補者)たち


マック赤坂
京大卒、伊藤忠商事出身という華麗な経歴を持ち、レアアースの貿易で財を成した実業家。
本名、戸並 誠(となみ まこと)。スマイル党総裁を自称。
選挙出馬の供託金(300万円)はその都度すべて没収されている。

羽柴誠三秀吉
私ら世代(元テレ世代)だと「口ゲンカ王・三上大和の父」の方がしっくりくる実業家兼、稀代の落選王。

外山恒一
「どうせ選挙じゃ何も変わらないんだよ!」でおなじみのキングオブトリッキー。
とはいえこの映画に出てくる外山の常識人っぷりを逆にトリッキーに感じた人も多かったのではないかと思う。


高橋正明/中村勝
出馬にそれぞれの意義を持つ「市井の人々」を代表したような候補者。
強烈なドラマは持たないが、それぞれの親子関係のエピソードや、活動中に起こる「偶然の出会い」などがこの映画の重要なアクセントとなっている。

岸田修
本映画中もっとも不気味な登場人物。
元大阪府職員という経歴の持ち主で、選挙活動をほとんど行わないうえにプライバシー侵害だということで顔出しの取材・撮影を許可せず。
それでも7人中4位の得票、という結果を見ると「選挙の闇」を象徴するような存在ともいえる。


◎体制側


安倍晋三/橋下徹/松井一郎/京都府公安
映画の構成上「悪の権化」にしか見えない(見せない)のが面白いと思う。
とくにマック陣営が「維新の会事務局」へ出向いたときの撮影班への対応がまるでヤクザなのが絵的にとても様になっていて非常に良い(皮肉)。
この映画は泡沫候補をメインにすえているので、体制側としての姿勢はこれが正しい形なのかもしれない。お上の考える民主主義の体現者たちだと思う。
あとチラッとしか出てこないが京都府公安警察の威圧感はけっこう見ものだ。

◎もう一人の主役たち


櫻井武(とその家族)
マック赤坂の秘書。
平凡な一市民だが優秀な働きぶりを見せるサンチョ・パンサのような男が、ドン・キホーテのような強烈なキャラクターの持ち主に従事する姿はそれだけで衆人の同情を誘うが、途中で明らかになる「家族の特別な事情」が出てきたあたりから、観る者の関心はドン・キホーテよりもサンチョ・パンサに一心に注がれることとなる。
終盤における櫻井氏の幼い息子が発した、端的かつ単純なマックへの所感と、櫻井氏のリアクションは爆笑必至である。そんなところがマックの、マックたる所以である。
普段社畜をやっている人間的には櫻井氏の言動の全てがボディーブローのようにメンタルに効いた。

戸並健太郎
マック赤坂の実子でマックが社長を勤める貿易会社の実質経営者。
松本大洋の漫画「花男」(超名作!)やウェス・アンダーソンの映画「ライフ・アクアティック」(超名作!)を彷彿とさせる、典型的「ダメ親父とまともな息子」の関係である。
この映画のキャッチコピーとなっている「あなたはまだ、負けてすらいない。」の謎を解明する鍵を握っている人物だ。
櫻井氏によるボディーブローが効いてきた頃に、不意打ちのフックで確実に仕留めに来る男、それが彼だ。








ほかにも西成のあいりん地区にいる選挙権がないホームレスの人々や、麻生安倍の演説に駆けつけて便乗演説をしようとするマックに「売国奴」という脈絡のない罵声を浴びせるネトウヨ(なのか?)の姿が印象に残っている。

「選挙」とは何か? を改めて考える

選挙がはじまるたびに「一人の投票で何が変わるのか?」といった議論が起こる。
そのたびに「変わらないけど、無投票じゃ世の中はさらに悪くなる一方じゃないか」という諦め半分の気持ちで投票所へ向かう。
選挙後の特番時期は池上さんと公明党の話ばかりが流れてくる。
私も興味本位でそれに乗っかる。「政教分離って一体何なんだ!?」とか。

映画「立候補」を見て、思いを少し改める。
泡沫候補やその周辺でやるせない思いをしている人々、投票権すらないホームレス。ついでに選挙権がまだない子どもや若者たち。
彼らのために私ができることは、自分が持っている小さな選挙権を行使することぐらいだ。
ちゃんと投票しよう(してるけどね)。何も変わらないけど(変わるのかな?)。



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