2015年8月20日木曜日

映画「野火 Fires on the Plain」の感想と深谷シネマについて

この夏公開になった映画「野火 Fires on the Plain」を観に、深谷市にある元酒造を改造した「深谷シネマ」に行ってきました。

映画「野火」ののぼりが掲げられた深谷シネマ

映画「野火」のことは、わが町・熊谷のお隣のお隣でもある深谷市内でもロケ撮影していたこともあり、前々から観たい映画としてずーっと意識はしていて、今回はこの映画にボランティア協力(&声のみ出演)もしている東京在住の友人Tさんから、「塚本監督の舞台挨拶もあるし、深谷へ行ってみたい」との申し出もあり、ついに深谷の地を踏むことに相成りました。



そもそも私ぐらいの年代(現在30〜40代)で演劇や映画製作などの創作活動に一度は手を染めたことがある人間ならば、「野火」の監督、鬼才・塚本晋也その人の名を知らない者はいないはずですし、もろに影響を受けすぎて「塚本フォロワー丸出しすぎwww」などと嘲笑を浴びた若き映画監督志望者も少なくないのではないでしょうか。
昭和50年代生まれの漫画愛好家が、大友克洋や松本大洋を読んだことない、とか言うようなものです。
塚本晋也といえば「ゲゲゲの女房」や「カーネーション」(見てない…)などの朝ドラ、「セクシーボイスアンドロボ」のほのぼのとしたお父さん役(これは見た)等の俳優としての方が有名かもしれませんが、監督業が本業です。
田口トモロヲといえばプロジェクトXのナレーターではなく映画「鉄男」の主人公ですし、三白眼の目がキリッとしたモデル出身の女優といえば藤井かほり(「東京フィスト」ヒロイン)と真野きりな(「バレット・バレエ BULLET BALLET」ヒロイン)と相場は決まっています。

そんな塚本監督の最新作が、しかも何やら好戦的なきな臭いムードすら漂う戦後70年の今年に公開されるとあっては、これを見ずにはいられまい、というわけであります。

深谷駅の駅舎は東京駅の赤レンガ駅舎をモチーフとしている。
しかし東京駅と違い煉瓦構造ではなくタイル張りである。これ豆な。

ひとまず、深谷への思い入れをひと通り語らないと「野火」の感想には移れないので、しばらくお付き合いください。
さて深谷といえば、北関東産の泥くさい名作「サイタマノラッパー」シリーズ第一作の舞台であり、シリーズの監督・入江悠氏の出身地ということで、以前から入江監督のご実家であるブロッコリー畑やらその他の敷地で頻繁に映画のロケが行われていることなど、高崎線沿線住民のシネフィルの間では有名です。
(年間2、3本ぐらいしか映画館に行かない人間のくせしてシネフィル名乗ってすみません…今年はマッドマックスくらいしか観てません。V8!V8!)

またその深谷には「七ツ梅酒造」という300年の歴史がある元酒造を改造した、大変趣きのある映画館があることもよく知られています。
熊谷に越して来てから1年がたち、いつかは行ってみたいと思ってはいたものの、駅からちょっと歩くのは面倒だなあ…と二の足を踏んでいたのですが、この「野火」公開の機会にやっと行くことができました。

ちなみに、これまた高崎線沿線シネフィル内では名の知れたミニシアター系映画館「シネマテークたかさき」でも野火は上映されていますので、シネフィル・グンマーはぜひそちらへ。


酒造跡の小道。
奥の「財団法人東京厚生食堂協會」と描かれた看板はレプリカではなく本物っぽい



一般社団法人 まち遺し深谷 の看板

深谷シネマ表口。「七ツ梅酒造」の味わいのある看板もそのまま


七ツ梅よろずの郷。
この日は友人の恩師を送るため、この界隈には寄れませんでした。また来たいです!


深谷シネマ前の中庭。煉瓦造りの煙突が目立ちます。


この七ツ梅酒造跡地にはカフェや貸しホールなどがあり、友人の話によると深谷シネマ内では野菜も売っていたそうで、道の駅的なコミュニティースペースとして機能している様子です。
でも塚本監督に本へサインをしてもらった前後は緊張しすぎて記憶が飛んでいるので、深谷シネマ内のことはほとんどおぼえていません。
あ、でも前にいた人たちが握手してもらっているのを見て、私も握手してもらいました。
監督の手は……柔らかかったです。そりゃ固いわけ、ないよね!鉄男じゃないんだし!


映画「野火」の感想

さて。深谷話はこのへんにして、そろそろ映画「野火」の感想を。

冒頭、結核で肺がやられている主人公の田村が上官にバッシバシ殴られて分隊を追い出され、弱り切った体で一日かけて野戦病院へと向かうのですが、辿り着いたのは病院とは名ばかりの隙間だらけの掘っ立て小屋。
死体と見紛うほどのおびただしい数の傷兵が床にはいつくばっているような状況で、開始早々から「こ、こんなの病院じゃない。じ、地獄だ…」と目を覆いたくなりました。
野戦病院といえばロバート・アルトマンのブラックコメディ戦争映画「M★A★S★H マッシュ」のあの病院を連想してしまうのですが、「野火」の野戦病院は地獄でした。
(ドナルド・サザーランドのホークアイが超かっこいいんだよなー。いたずらが酷いけど)

しかしこんなしょっぱなでこの地獄っぷり、このあとさらに加速するんだよね、と嫌な予感。その予感はもちろん的中しました。
(トラウマ必至な描写はぜひ本編で)
残酷で刺激的な場面の連続に疲れ果て、終盤の戦地から戻って静寂のときを迎える頃にはようやく私自身の気持ちも落ち着きを取り戻したのですが、それもつかの間…
エンドロールが終わるとすぐには立ち直れず、「感無量とはこのことか」と思いました。

そんな地獄絵図が繰り広げられる舞台は、フィリピンの手つかずの原野。
ジャングルを覆うビビッドな緑の原生林、毒々しくも鮮やかな南国の花々、ゴツゴツとした山肌、黒々とした夜の海、白くどこまでも続く砂浜、目の前に迫ってくるほど立体的な入道雲、ぬけるような青い空、これらの自然の美しさには目を見張るものがありました。
とくにジャングルの青々とした緑と、泥や血で汚れた兵士たちのどす黒い顔とのコントラストが鮮やかで、とても印象に残っています。
フィリピンの美しすぎる自然を前に「平和な時代にこそ行くべき場所だな」と痛感しました。
ただ観覧後、関係者の方や監督のトークの中で「あのシーンは深谷の…」「あれは沖縄で…」などの解説を聞いたときは脱力、そして脱帽したのは言うまでもありません。

とにかくこの「野火」は政治的な時勢柄、そして人肉食の描写が出てくることもあり、スポンサー探しは困難を極めたそうで、有力な配給会社もつかず、監督の私財を投げうったに等しい作品だったそうです。
各映画館には監督自ら上映のお願いに伺ったり、非常に限られた予算の中で様々な工夫を凝らして制作されているので、実際にフィリピンで撮影したシーンは数えるほどしかなかったとか。
まさかあのシーンが深谷で撮影されたなんて…

映画を観終わってしばらくたっても頭の中は真っ白で、長い間茫然自失としていました。
他の作品と比べるのはあまりよくないとは思いますが、グロいと評判の某巨人映画を観てゴチャゴチャガタガタ文句をたれるぐらいなら、「野火」を観て下手な感想が言えなくなるくらいに打ちのめされればいいのに、と思いました。

戦争を実際に経験した生き証人が減りつつある戦後70年の節目に、戦争の悲惨さを忘れないために、今見るべき映画だと思います。
「若い人のよいトラウマになってほしい。私が子どものころ読んだ「はだしのゲン」のような」
これは塚本監督の言葉ですが、私もそう思いました。

そういえば、この映画を観に行った日は8月16日でした。
お盆の時期は死者の迎え送りと原爆投下の日、そして終戦記念日と続くので、毎年なるべく厳かな、逆クリスマス的な気持ちで迎えるようにしているのですが、今年の8月15日は「ホステスクラブオールナイター」というサマソニのオールナイトイベントで遊びほうけてしまい([ライブレポートのようなもの]FFS @HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER)いわば罪滅ぼしのような気持ちでこの映画を観覧しました。
一日遅れの終戦記念日を最良の形で迎えることができた、そんな気がします。


(追記その1)
原作者の大岡昇平に対しては白洲正子のエッセイの影響で、「愛人に死なれて、他の男(主に青山二郎)への恨み節を小説に書いた人」「なんかダメな人」というイメージがあり、原作を読んでいませんでした。
この機会に「野火」読んでみようかと思います。

(追記その2)
ちょっと笑ってしまったポイント。
田村の咳き込み方。
本当は過酷な状況なはずなのに、どこか妙な味わいがあって、クスっときました。
私だけかもしれませんが…

(追記その3)
笑ってしまったポイントもう一つ。
歳若い永松(森優作さん)がよく泣く、寂しがり屋だった点。
「若い子はよく泣くねー」とか「なんでそんな汚いおじさん(リリー・フランキー氏)に擦り寄るの?」と保護者のような眼差しで見ていたのですが、それだけ彼が幼いということなんですよね。
笑ってしまいつつも、こんな幼い青年まで戦場に駆り出した、あの戦争の罪深さを感じずにはいられませんでした。

(追記その4)
笑ってしまった裏話。
「塚本晋也×野火」という本の、宮台真司氏との対談の中で塚本監督が語っていたのですが、監督演じる田村の顔の周りにたかっていたハエは本物(腐った食べ物を使っておびき寄せ)で伍長殿の中村達也さんの顔にたかっていたのは死にかけのハエを糸で吊ったもの、とのこと。
自分はともかく中村さんに同じことは要求できない、という監督のやさしさが泣けます。ウッッ(嘘泣き)

(追記その5)
今週末のRHYMESTER宇多丸さんのラジオ「ウィークエンド・シャッフル」のコーナー、ムービーウォッチメンで「野火」が取り上げられるようです。
宇多さんの感想、超たのしみです!
TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

(追記その6)
追記がどこまで増えるんだ…という感じですが。
この記事を読んだサイタマノラッパーファンで東京在住の友人が、
「ぜひ深谷で野火を観てみたい」とわざわざ深谷と熊谷まで足を運んでくれました。
ブログやってて、本当によかった…
あと熊谷の絶品のかき氷やさん「慈げん」にも一緒に行けて本当によかった。
慈げんの感想は後日書きたいと思っています。

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