2014年4月2日水曜日

「福島第一原発観光地化計画」一億総放射能時代をむかえて

「メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故」とB.L.T.

すべての生物を死に至らしめる放射線を何万年何億年と放ち続ける「放射性物質」。
今やそこらじゅうに「放射能」が存在している。

「放射能」がなぜそこにあるのか。「放射性物質」はなぜ飛び散ってしまったのか。一体誰がこの状態を引き起こしてしまったのか。誰の罪が一番重いのか。





振り返ること。それはある意味ではとても重要なことだ。
マネジメント系の用語にPDCAサイクル(Plan Do Check Act それぞれの頭文字から)というものがある。
物事を進めるプロセスとしてまず計画があり、次に実行があり、評価を経て改善に至る、というものだ。
地震と津波という自然災害が大元の原因だが、様々な人災が重なった複合的な災害である原発事故がおこったのは、間違った計画(Plan)を間違って実行(Do)したためだ。
だから改善(Act)をしていくためにもこれらの過程を振り返り、評価(Check)をすることが必要不可欠となる。

しかし実際のところ責任逃れのための犯人探しばかりに終始し、改善の過程になかなか進めていないのが現状だ。

あの瞬間を振り返る。第34回講談社ノンフィクション賞受賞作「メルトダウン」がついに文庫化された。
iBook版 メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 - 大鹿靖明
文庫版  メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫) [文庫]
Kindle版も文庫版と同価格。私が購入した単行本版に大幅加筆しての文庫化……だと!?



私たちに後戻りは許されない。後ろには「放射能」がひかえている。後戻りは死を意味するからだ。
人は前にしか進むことができない。
でも犯人探しが忙しくて、前を向くことを忘れてしまっている人が多いように思う。

一億総放射能時代をむかえて、これから先の未来へと突き進むために一読をおすすめしたい本。
それが今回紹介する「福島第一原発観光地化計画」そして序章となる「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」なのである。

「福島第一原発観光地化計画」と「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」
「福島第一原発観光地化計画」の上のBE@BRICKぐんまちゃんはハニューフラッシュ中
「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」の上には東欧雑貨店で買った長靴をはいた猫バッジをレイアウト

 


単行本(ソフトカバータイプ)は1,995円だがKindle版は半額以下の900円。Kindle端末がないと読めないと思って単行本版を購入したのだが、iPhoneやMac PCでもKindleのアプリ(もちろん無料)がリリースされていると後から知ってショックを受けている。
Kindle版を買うべきだった…


以下 Amazon 福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2 より引用。

本書は、標題のとおり、二〇一一年の三月に深刻な事故を起こした福島第一原子力発電所の跡地と周辺地域を、後世のため「観光地化」するべきだ、という提言書です。「観光地化」とは、ここでは、事故跡地を観光客へ開放し、だれもが見ることができる、見たいと思う場所にするという意味で用いています。遊園地を作る、温泉を掘るという短絡的な意味ではありません。
(東浩紀「福島第一原発観光地化計画とは」)

2013年、現在の福島はどうなっているのか。(第1部「制度をつくる」)
2020年、東京は福島のためになにをすべきか。(第2部「導線をつくる」)
2036年、福島は世界にどのように開かれているべきか。(第3部「欲望をつくる」)

さらに補遺として、『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』の追加取材報告や、官民の福島の復興計画案を網羅した資料集を掲載。

前巻をはるかに上回る192ページフルカラーで、写真・図版を多数収録。
テレビ・新聞で話題沸騰の「福島第一原発観光地化計画」の実態がついに明らかに!!!

福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2


私は当初「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」しか読むつもりはなかった。
なぜ「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」を手にとったのか。
本題とあまり関係ない話なので、以降はフォントサイズを控えめにしておこう。

私は2011年の6月、十数年住んだ東京を離れて故郷の群馬へ戻ってきた。群馬で一旦休んでから運転免許を取り、やがてどこかへ高飛びしようと思っていた。
新潟での免許取得合宿中に東日本の汚染地図が公開された。自分が思っていたほどの汚染度ではないことを知った。
また汚染した食べ物の流通がある一定地域では留められないということも事故後数ヶ月で明るみになった。
そして思っていた以上に自分の運転センスがひどいことを知った。

高飛びにあまり意味を見いだせなくなり、険しい道が多い田舎で暮らすには自分の運転技術ではあまりにも危険だと察知した私は「群馬で生きていくこと」を模索しはじめた。
手始めに群馬をもっとよく知ることにした。故郷の活性化の一旦を担いたいと思った。群馬の観光についていろいろと考えはじめた。
日航機墜落という20世紀最大の航空機事故がおきた悲劇の場所である群馬県上野村の御巣鷹山をめぐる「ダークツーリズム」という概念を知った。
そして「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」を手にとった。チェルノブイリ市、そしてプリピャチの姿は未来の福島や群馬を映し出しているように思えた。


「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」を読んで群馬について考えたこと|伊香保温泉図鑑

上記のブログとTwitterで書いたことの繰り返しになってしまうが、「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」についての感想をもう一度こちらにも書いておこうと思う。


「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」は原発事故から28年経ったチェルノブイリやプリピャチの町が現在どこまで放射線量が低下したか、どのように観光地化されたか、という実態がわかるルポルタージュだ。
除染作業が進んだことと自然半減の影響で空間放射線量はかなり低減が進み、人が立ち入ることができるエリアも事故後と比べてかなり広がっているということを伝えてくれる。

福島の、そして故郷群馬の未来はそう暗くはないのではないか、そう思っているときに「赤城大沼で釣ったワカサギの持ち帰りが解禁された」というニュースを知った。
原発事故直後は500Bq(ベクレル)超えだった大沼のワカサギの数値が、現在は国の基準値100Bq以下の82Bqに落ち着いてきたので、県では規制していた持ち帰りを解禁した、というニュースだった。
今後妊娠・出産を考えている女性と男性、そして子どもたちが安心して食べるにはまだ抵抗のある数値だろう。
実際に82Bqではまだ高いということで、結局国から50Bqを下回るまでは解禁してはならないという要請を受け、県は再自粛という形をとることになってしまった。
しかし事故後のおよそ3年でここまで数値が下がったことは非常に喜ばしいことだと思う。
たった3年でここまで順調に低減したのだから、近い将来もしかしたらゼロベクレルになるかもしれない。
「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」でチェルノブイリの現状を知り、同時にワカサギのベクレル低減のニュースを耳にし、そんな希望の念を抱いたのだ。


そして続編の「福島第一原発観光地化計画」という本についてだ。

この計画を提唱している東浩紀氏をはじめとした津田大介氏らの試みをはじめて知った時は、「福島第一原発観光地化計画」の最初の方にも対談相手として出てくる久田将義氏(『実話ナックルズ」『ノンフィクスナックルズ』等の元編集長)と同様に、原発事故による被災者や原発関係労働者の心情や意思をあまりにも軽視していると思ったし、その意見が建設的かどうかを考えるまでもなく嫌悪感が先立った。
タイトルがあまりに刺激的というか挑発的で「売れる本を作るのってほんと大変だなあ」とか大きなお世話だろうが制作側に同情を寄せつつ、どう慮っても時期尚早だろうという気がしたのだ。
しかし前編ともいえる「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」を読みすすめるうちに、いつしか「福島第一原発観光地化計画」にも興味がわいてきた。

ダークツーリズム・ガイドでも記されているように、震災後の爪痕を象徴するような何らかの物体を遺すことに関して、東日本大震災で被災したほとんどの自治体は消極的だ。
なかには遺すことを検討する議論の場を設けずに粛々と解体をすすめる場所もあるらしい。
地震や津波、原発事故は多くの人々の命を奪い、残された人々の生命を脅かした。
生々しい恐怖の記憶にいまだに悩まされPTSDを患ってしまった人も大勢いる。
恐怖の痕跡をいち早く消し去ろうとする行動を取ることは人間の心理として当然かもしれない。

ただチェルノブイリの博物館の例を見ると、遺しておくことが住民だけでなく後世の人にとっていかに重要かということを思い知らされる。
当事者以外の後世を生きる人々の未来を明るいものにするためにも、この記憶を伝える重要性を感じた。
最初は負の記憶を思い起こさせる忌まわしい物体でしかなかったものが、あとあとになって異なった重要な意味を持つものになる。
未来の自身や未来の住民、未来の誰かにとって、それらがとても価値のあるモニュメントになるということを、チェルノブイリ、そしてプリピャチで観光地化を進める人々は教えてくれた。
忌まわしい物体を遺すという作業にまつわる心情面や実情面での苦労や軋轢は並大抵ではないと思う。
しかし今この時にも重要なモニュメントは失われつつあるのだ。

後ろを振り返っている暇はない。
今すぐに前を向いて歩みを進めるためには「福島第一原発観光地化計画」でされている提言に耳を傾けるべきだ。

まだ読んでいる途中ではあるが、一番泣けてきた項目は、
「現都知事・猪瀬直樹に計画を提言し反応を伺う」というページだ。
猪瀬氏の反応としては「福島の人々が自発的に行動を起こすことに意味がある。東京都としてやれることはさほどない」というものだったが概ね計画に対して悪い印象を持ってはいなかったようだ。
しかし彼はすでに一般人である。
「現都知事」の肩書がこれほど物悲しいものになるとはこの時一体誰が気がついただろか。


では前向きな気持ちになるために、ここで一曲。
AKB48「前しか向かねえ」

ではなくて、クラフトワーク「放射能」。

RADIOACTIVITY - KRAFTWERK - HD Live



とても前向きな気持ちになれるような曲調ではないが、ヒートアップした頭をクールダウンする時には非常に役に立つ曲だと思う。

福島第一原発事故直後に渋谷UPLINKまで観に行った「100,000年後の安全」という、クールな映像美に圧倒されっぱなしのドキュメンタリー映画の中で、何年かぶりにこの曲を聴いた。

「やっぱりクラフトワークは20世紀最高のバンドだな」などと思い、その後家に帰ってから立て続けに「ツール・ド・フランス」やら「アウトバーン」やら「ロボット」などを聴き漁ってクラフトワークの奏でるエレクトロニック・シャワーを浴びまくったほどだった。


世界に先駆け、10万年間保持される設計で永久地層処分場の建設を決定したフィンランドの現状に迫るドキュメンタリー。高レベル放射性廃棄物は管理しうるのか?監督自ら建設中の施設に潜入し、専門家たちに未来の子孫の安全性について問い掛ける。 

Radio-Activity (2009 Remaster) - クラフトワーク



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