「峠の釜めし」横川駅すぐそばのおぎのやドライブインにて
群馬が生んだNo.1駅弁といえば、高崎の「だるま弁当」だろうか。
いやいや、弁当箱が貯金箱にもなる「だるま弁当」も捨てがたいが、何はなくともNo.1はおぎのやの「峠の釜めし」をおいて他にはないだろう。
そんな押しも押されもせぬ群馬名物「峠の釜めし」の話をするその前に、いきなり本題から離れて何だが、「群馬の味」と呼ばれるものについて、ほんの少し愚痴らせてほしい。
お釜は持ち帰り可。しかし意外に使い道がない。
さて。
いわゆる「群馬の味」といえば、「何でもかんでも醤油で煮染めた味」と相場が決まっている。
群馬を代表するタレント・中山秀征氏も、関西出身の奥さんからあの味を理解してもらえないで困っていると嘆くほど、「醤油煮味」の地位は高い。
しかしあの味に対して、私ほど不寛容な上州人もいないであろうことを自負している。
19歳で東京暮らしを始め、35歳で群馬に戻り、今年で3年目。
大人になってから群馬で過ごした年月が短いため、郷土の味にあまり思い入れが無いのだ。
本物の釜めしより二回り小さい「峠のりんご飴」。信州産ふじりんご果汁使用
では長く暮らした東京のご飯が一番うまいのかというと、たぶんそうなのだとは思うが、うまい料理にありつくにはある程度の金銭が必要とされる。
しかしあいにく私には持ち合わせがなかった。
そんな持ち合わせがない人でも、最高に旨いご飯が労せずに食べられる都道府県のトップといえば、絶対に大阪以外ないだろう。
日本全国から集まる食材を安く美味しくアレンジすることにかけては江戸の時代から天下一だ。
たった一泊二日しか大阪にいたことはないが、あの時に私は悟った。
たこ焼き、串カツ、素うどん、寿司、カレー、etc…
たったこれっぽっちを食べただけだが、さすがは天下の台所、食い倒れの町、と言われるだけはあり、当たり飯遭遇率の高さは半端ではなかった。
何の気なしにふらっと入った町の食堂でも100パーセント外さない。調べて入った店は当然うまい。
しかもうまいものが安い。
いわばB級グルメの宝庫なのだ。
同時に北関東のハズレ飯遭遇率の高さは並みではない。
でろでろでコシゼロのうどん、やけに粉っぽい蕎麦、出汁の概念がない真っ茶色のおつゆ、レンジでチンしたパサパサの薄いとんかつ、食べ続ければ高血圧症必至の塩辛い煮物、塩辛い焼肉、それらの味に反比例した強気の値段設定、etc…
こうして県内で食べた不味い飯を思い出し、書き留めているだけで血圧が急上昇しそうだ。
また群馬に限ったことではないが、観光地の食堂ではアクセスの悪さから客の足元を見て高をくくっているのか、ホスピタリティのホの字も感じさせない店員遭遇率も高い。
県内のとある、不味くもなく旨くもない、適当な蕎麦屋に入ったときのことだった。
注文した蕎麦を待っている最中、パートの女性たちが学生アルバイトの研修生たちにまかないを振る舞い始めた。
周りの人間の反応や前後関係を整理して見ると、かなりの人数が順番を飛ばされてまかないが先に振舞われた様子だった。
私自身は一瞬ぎょっとしたが、素人に毛が生えたような田舎の人がノリで運営しているような食堂だから仕方ない、と思って粛々と蕎麦を待っていた。
しかし近くのテーブルにいた他県から来た客人の一人がたいそう不機嫌そうに「早く群馬を出たい」とつぶやいたのを聞き逃さなかった。
この蕎麦屋での仕打ち以前に、彼女には群馬にいることで溜まりに溜まった何かがあったのだろうが、群馬県民の一人として、観光業におけるホスピタリティは世界に誇れる日本の自慢のひとつだという思いがある者として、本当にあの「早く群馬を出たい」という言葉は身にしみてつらかった。
群馬のような片田舎で食べ物を探す時、ちょっと気を抜けば一気に奈落に突き落とされる可能性は高い。
群馬を旅する異郷の人には口を酸っぱくして言いたい。
「食探しに油断は禁物だ」と。「万全の態勢で臨むべし」と。
黄金の釜めし。壱億個達成記念、だそう。
さて、そんな群馬の味に対して疑心暗鬼になりがちな私だが、最近、実に10何年ぶりにおぎのやの峠の釜めしを食べる機会に恵まれた。
ひさびさにあの釜めしを前にし、
「田舎くさい醤油ベースの味付けだけど、嫌いじゃないんだよねえ」
などと余裕綽々で構えていた。
しかし、久しぶりに食べる峠の釜めしは、自分の思い出の遥か上を行く代物だった。
ふたたびの、おぎのや「峠の釜めし」
ベースとなる炊き込みご飯にしみこんだ醤油の塩加減がとくに絶妙で、ご飯単体だけでも釜一つ分はペロリといけそうなほどだ。
具材の中で最も好きなのは、子どもの頃と変わらず「うずらの玉子」だ。
いつも最後までとっておくのが定番だった。
幼少時にはこの峠の釜めしと、だるま弁当に乗ったうずらの玉子だけをたくさん食べてお腹いっぱいになりたい!と夢見たものだ。
その夢はまだ叶っていない。
二番目に好きな椎茸は、噛むとじゅわっと煮汁がしみ出てくるのがたまらない。
味がよくしみていて歯ごたえがよいゴボウとタケノコの組み合せも素晴らしい。
メインの鶏肉も柔らかジューシーだ。
そして、栗とあんずの甘みが釜めしの上で織りなすハーモニー。 これが大好きな人も多かろう。
(しかし、私は釜めしに乗った甘い具材が今も昔も苦手である…)
懐かしい。そして、旨い。美味い。ウマい。思っていた以上にうますぎる。
ひさびさの郷土の味に、感激の波が止まらない。
果たしてこのうまさ、思い出補正が効いているのか、本当に、フラットに見てうまいのか。
今のところ、冷静な判断はつきかねる。
しかし知らず知らずのうちに私のDNAには、あの峠の釜めしの味を強烈に欲する本能が刻まれていたようだ。
釜めし掛け紙コレクション。色の変化ぐらいでレイアウトは長年ほとんど変わっていない。
少し残念なのは、昨年9月か10月の時点では900円で食べられたのだが、最近1000円に値上げしたらしいのだ。
海鮮丼駅弁のような高級食材を使っていないので、このような田舎くさいルックスの駅弁が1000円だと若干割高な印象を受ける人も多いだろう。
だがしかし、一度は手にとって食べてみてほしい。
決して損はさせないから。
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また施設内でもおぎのやの釜めしを食べられる。
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