2013年6月22日土曜日

谷川岳・天神尾根ルート初心者登山レコ+宝川温泉での珍事件

谷川岳 一の倉沢1

2012年6月末日。
最大規模の人出となる7月3日谷川岳の日を迎えるその前に、山好きで写真好きの父に誘われて、私は噂に名高い「魔の山」を見るために一ノ倉沢(いちのくらさわ)へ出向いた。

谷川岳が「魔の山」と呼ばれるのは、この一ノ倉沢の前方にそびえ立つ衝立岩(ついたていわ)など数々の岩場の存在が大きい。


衝立岩

写真は一ノ倉沢から見上げた一ノ倉岳の衝立岩・正面壁だ。
麓の町では気温30℃を記録する日もあるというのに、まだところどころに巨大な雪渓が残っている。

衝立岩の正面壁は、宙吊りのまま遺体となってしまった遭難者のザイルを、銃撃によって切断して収容した悲劇的な事件(谷川岳宙吊り遺体収容)が起こった絶壁として広く世に知られている。
群馬にある架空の地方新聞社が舞台となった小説「クライマーズ・ハイ」のクライマックスにも登場する岩壁だ。


「沈まぬ太陽」と合わせて読みたい一冊


谷川岳の遭難者数はおよそ800人以上。
これは8000m級峰14座の遭難者の合計(2005年現在で637人)よりも多く、ぶっちぎりの世界ワースト記録となっている。
しかし谷川岳遭難者のほとんどは登山客ではなく、これらの岩壁を登攀しようとして滑落死したロッククライマーたちなのだ。

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私は一ノ倉沢からこの衝立岩を見上げ、「この岩を登攀してみたい」とはさすがに思わなかったが、「登山をするならぜひこの山から始めてみたい」そう思った。
テント泊ありの野外フェスを何度か経験していたので、テント泊キャンプにまつわるグッズは一通り揃えている。キャンプグッズと登山道具は被る部分が多いので、あとは山に登るだけ、という状態だ。

私の周りには野外フェス好きも多いが登山愛好家も多い。
谷川岳を見た帰りにふと思いついて、ある友人に
「もし谷川岳に来ることがあれば、ぜひ誘ってよ」
と軽い調子でメールを送った。
すると、
「谷川岳には前々から登りたいと思ってたんだ! じゃあ、いついつぐらいにどう?」
とかなり乗り気のメールが速攻で返ってきたのだった。
関東近県の山好きの間では「谷川岳」というのは抗い難い魅力のあるキーワードの一つなのだろう。

そんなふうに、私のふとした思いつきから、トントン拍子で谷川岳登山の日程が決まっていった。


2012年8月28日。
友人には東京から始発の新幹線で群馬まで来てもらった。一旦私の最寄り駅で下車してもらい、そこから水上インターまでは父に借りた車で行くことにした。

途中コンビニなどに立ち寄り、8時半ぐらいには谷川岳ロープウェイ山麓駅の土合口駅・ベースプラザに到着した。

9時6分 天神尾根ルートへ向けてロープウェイに乗車する。

谷川岳天神平ロープウェイ


谷川岳天神平ロープウェイの模型

山麓の土合口駅は標高746m。 山頂の天神平駅は標高1319m。
標高差573mをロープウェイはおよそ7分で駆け登る。
滑車がかけられた二本のロープの幅が一般的なゴンドラよりも広い場合、この形状を「フニテル」と呼ぶらしい。「フニテル」。かわいい響きだ。
フニテル形式のロープウェイはロープ幅が広いので、運転中に席を移動してもあまりグラグラしない。おかげで安心して乗ることができた。


約7分で天神平駅に到着。
さらに天神峠リフトに乗り、こちらも7分で天神峠展望台へ。
ここが天神尾根ルートの登山口だ。
展望台近くには弁財天などもあるらしいが、登山に来た我々は雲行きが気になっていてそれどころではなかった。
ストレッチを一通りしてから、山頂に向けてそそくさと出発した。

ないと思ったら撮ってた。天神平登山口から見えたオキ&トマとそれに群がるおじいちゃんたちの図。この時間に頂上にいればなあ。

9時31分
天神峠展望台から見えた「トマの耳」と「オキの耳」。
その昔、谷川岳は「耳二つ」と呼ばれていたらしい。
 (深田久弥著・日本百名山より)


我が家のバイブル


耳二つに群がるおじい様たちに「若い人はいいねえ。頑張ってね」と声をかけられた。
山道でお会いする年配の方々にはよく「若くていいねえ」とか「いよ!山ガールのお出ましだ!」などと声をかけられる。
私はそのたびに「そんなに若くないんですよ」「ガールってほどの歳じゃないんですよ」と律儀に返してしまう。
山の上にいる時ぐらいは素直になりたいものだ。



谷川連峰

11時16分
登山口からここまでの間、撮った写真はほとんどない。
それだけ余裕がなかったということだ。

写真は森林限界を突破したあたり。高度はおそらく1600〜1700mぐらいだろうか。
本州の山岳地の森林限界はおよそ2500mほどらしいのだが、気象が厳しい谷川岳はおよそ1500mあたりで森林限界をむかえるのだそうだ。
熊笹の野原をいくつか抜けて頂上を目指した。



天狗の止まり場、もしくはザンゲ岩

11時53分
天狗の止まり場、もしくはザンゲ岩、のどちらか。
岩の上にいる老夫婦が、上空を漂う雲に吸い込まれていってしまうようにも見える。
お迎えはもう少し待ってほしい。
そう願いつつ先を急ぐ。




12時14分
肩の小屋前の「谷川の鐘」。
頂上のトマの耳まではあと一息。
鐘の向こう側は真っ白だ。
天神峠にいた時に見た山頂は晴れていたが、ついに雲海に囲まれてしまった。


見ろ!人が豆のようだ!


12時24分
「耳二つ」のうちの一つ、山頂トマの耳に到着。
北側のオキの耳方面を望む。
しかし肝心の耳が雲を突き抜け Fly away



トマの耳とゆび


12時23分
トマの耳から肩の小屋方面を望む。
我々は意図せずして雲上人になってしまった。


(賢者には見える)オキの耳から見たトマの耳

13時24分
二つ目の山頂、オキの耳に到着。
(賢者には見える)オキの耳から見たトマの耳。
私には見える……見えるぞ!


友人の当初の計画では、一ノ倉沢のノゾキまで行くつもりだったそうだが、ガスが晴れる気配が全くなかったのと、登山初心者の私の疲労困憊があまりにも激しかったのとでやむなく中止となった。
ガスのせいで眺望不良なのは恨めしかったが、ガスっていてある意味ラッキーだった。

視界不良のためそそくさとトマの耳に戻り、友人にジェットボイルで湯を沸かしてもらい、カップラーメンを貪った。
そしてドリップ式コーヒーを啜った。

私が山に登るのは、山頂でラーメンを食べ、コーヒーを飲むためだ。と言っても過言ではない。
山頂で食べるカップラーメンと山頂で飲むコーヒーはなぜあんなに美味いのか。

そして友にはこの場を借りてお礼を言いたい。
お水を山頂まで運んでくれてありがとう。
そのお水を分けてくれてありがとう。
ジェットボイルを山頂まで運んでくれてありがとう。
ジェットボイルでお湯を沸かしてくれてありがとう。
そのお湯を分けてくれてありがとう。
こんなにうまいカップラーメンとコーヒーを山頂で味あわせてくれてありがとう。
そして山道の運転が嫌いな私にかわって運転してくれてありがとう。

そして報告があります。
ジェットボイル、うらやましすぎて自分も買いました。


山渓オンラインで買いました。





15時50分
山頂からおよそ2時間半で登山スタート地点の天神平ビューテラスに到着。
下山の中盤以降、私の膝は笑いっぱなしだった。




谷川岳天神平ビューテラス

16時頃。谷川岳天神平ビューテラスにて。
窓の外に見えるのは、左から笠ヶ岳、朝日岳、白毛門。
テラスからの眺めは素晴らしく、何時間でもいたいくらい居心地がよかった。
とはいえロープウェイ下り最終は17時だったので、長居はできなかった。

ビューテラスのレストランでは、私はかき氷を、友人はコーヒーゼリーを食べた。
そしてレストラン内で無料で提供されていた谷川岳の天然水を、登山中に飲めなかった分を補うかのように、飲んで飲んで飲みまくった。




土合駅駅舎

16時56分
「どあい」駅に到着。
谷川岳登山に来たからには、ここを通らずには帰れないだろう。


友人「これが例のモグラ駅か。潜りて〜」
私「今日は無理!」
友人「虚弱か!乙女か!」
私「私のこの膝を見よ!(ガクガクのブルブルで)」
友人「膝、超ウケてるんですけどwww」



そして先日私は、友に黙って抜け駆けをしてしまった。

もぐらじゃないとやってられないよ 〜土合駅を一人占めした日

友よ、すまぬ。


浴衣姿の人々が吸い込まれていく巨大な灰色の箱

17時11分
変わった形の建物に吸い込まれていく浴衣姿の人々。
土合のお隣の湯檜曽駅。こちらもちょっとしたモグラ駅らしい。


宝川温泉なんとか閣

18時40分
宝川温泉・汪泉閣に到着。
関東最大級という巨大な面積を誇る露天風呂が名物の宝川温泉・汪泉閣(たからがわおんせん・おうせんかく)。
一応混浴も可、だそう。

すでに日帰り客の受付を締め切った後だったのだが、登山帰りでくたくたの我々を不憫に思ってくれた従業員の方の厚意で、なんとか入れてもらえることになった。
しかも1時間しかいられないから、ということで入場料1500円のところをサービスで1000円にしてもらえた。
さすがにおじさん達に紛れて混浴はしなかったが、女湯の露天風呂だけでもなかなかの広さで、ゆったりといいお湯を堪能できた。

あの日、ほかに行くあてもない我々を受け入れてくれた宝川温泉の従業員の方には、心の底から感謝の意を示したい。

だが我々は、受付時のあのやり取りを、決して忘れることはできない。


受付「谷川岳に登ってきたの?すごいね!」
我々「でもロープウェイ使いましたし」
受付「わー、ズルだズルだ!いーけないんだ、いけないんだ♪」
我々「え!?」
受付「うそうそwww ワロスワロス」
我々「あ……アハハハ(く、くやじい……)」


天神尾根ルートの谷川岳登山はズル。一般的にはそう思えるのだろうか。
そんなふうに言うんだったら、日本三大急登のひとつ、西黒尾根ルートから登ってやろうじゃないか! いつか!いつかな!
そんな気にさせてくれた、宝川温泉での珍事、なのであった。


■ほかの日本百名山レコ






専門ガイドが同行する登山ツアー。
ゆとりある行程、ペース配分で登頂を目指す。

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